オキシコドン注をフェンタニル注へ変更する方法は?
本記事では、上記のような悩みを解決します。
こんにちわ、iwata(@iwamegane)です。薬剤師として緩和ケア病棟を専任し19年。その経験をもとに、患者さんとのエピソード、緩和ケアに関連する薬について情報発信しています。
50代すい臓がんの患者さん。腹部、および腰部痛に対しオピオイドを増量していました。レスキュー頻回、ベット上で身動きがとれないくらい、疼痛コントロールに難渋していました。そこで、オピオイドスイッチングの検討となりました。
投与していたオピオイド鎮痛薬
緩和ケア病棟に入院してきた時、投与していたオピオイド鎮痛薬の注射処方です。
オキファスト注(50㎎/5mL)1A
+ オキファスト注(10mg/1mL) 1A
+ 生理食塩液 42mL
全量48mL 持続静注 投与速度 2mL/時
オキシコドン注として、1日投与量60㎎
入院2日後、疼痛コントロール不良にて増量となりました。
オキファスト注(50㎎/5mL)1A
+ オキファスト注(10mg/1mL) 4A
+ 生理食塩液 39mL
全量48mL 持続静注 投与速度 2mL/時
オキシコドン注として、1日投与量90㎎
オピオイドの増量
医師より、オキシコドン注射剤にて疼痛コントロール不良にて相談がありました。レスキュー頻回、ご家族が何回も何回もナースステーションに訪れて「痛がっています、薬を使ってほしい」と相談に来ている状況でした。
増量幅について
通常、ベース量の20~30%を目安に増量します。いきなり、1.5倍や2倍に増量では有害事象発現リスクが大きいです。そこで、以下の通り考えました。
オキシコドン注、1日投与量として 90㎎×1.2~1.5 = 108~117mg
意思疎通は可能でしたが、血圧90代と低下していました。レスキューの効果はあったので、増量する余地はありました。もう少し落ちている段階であれば「120㎎以上への増量」でも問題ないと考え提案します。しかし、意識状態は保たれているものの、血圧低下がみられ状態は悪化している状況です。残された時間はどんどん短くなっている印象でした。そこで、呼吸抑制の有害事象発現リスクが高い状況と考え「110㎎へ増量」を提案しました。提案した処方内容は以下の通りです。
オキファスト注(50㎎/5mL)2A
+ オキファスト注(10mg/1mL) 1A
+ 生理食塩液 37mL
全量48mL 持続静注 投与速度 2mL/時
オキシコドン注として、1日投与量110㎎
フェンタニルへオピオイドスイッチング
オキシコドン注では疼痛コントロール不良と判断されオキシコドン注の増量ではなく、フェンタニル注へオピオイドスイッチングすることになりました。
換算比はあくまで目安です。本来であればオーバードーズ(用量過多)による有害事象(呼吸抑制)発現リスクを回避するため、「現在の投与量×換算比×70%量」にて投与量を設定します。そこから増量しながらタイトレーション(用量調整)していきます。今回、疼痛コントロール不良だっため増量としたと考え、フェンタニル注1日投与量1.8mgの70%量とはせず、等換算(100%量)としました。セレネース注は軽い鎮静及びせん妄予防として追加されています。そして、提案した処方内容にて投与開始となりました。
- オキシコドン注 90㎎ = オキシコドン内服 120㎎ (3:4)
- オキシコドン内服 120㎎ = モルヒネ内服 180㎎ (2:3)
- モルヒネ内服 180㎎ = フェンタニル注 1.8㎎ (100:1)
フェンタニル注 (5㎎/10mL) 4A
+ セレネース注(5㎎/1mL) 0.5A
+ 生理食塩液 7.5mL
全量48mL 持続静注 投与速度 1.8mL/時
フェンタニル注として、1日量
オキシコドン注からフェンタニル注への換算する場合、「モルヒネ内服」に戻してから換算していくと考えやすいです。オピオイドすべての組み合わせの換算を覚えることは難しいですが、モルヒネ内服を中心すると換算比を覚えやすいです。
モルヒネ内服を基準にすると換算比を覚えやすいです!
アメリカンバイク
フェンタニル投与開始され間もなく、患者さんの知人がナースステーションを訪ねてきました。
「〇〇(患者さん)が購入していたバイクが完成したから、見せたあげたいんです。病院玄関の横だったらバイクを押してこれます!」と、相談されました。時間単位で病状は悪化しており、残された時間は少なくなっている印象です。緩和ケア病棟スタッフとして、移動することでさらに悪化させるリスク、急変のリスクも懸念していました。朝の段階で、患者さん本人から「妻がそばにいてくれれば充分、バイクを見れなくてもや無負えないかも…」と、担当看護師さんと話していたそうです。
しかし、担当医も同伴してくれることとなり、ベットごと病院玄関まで移動することになりました。家族に見守られ、医師、看護師が同伴して移動することにしました。僕も、点滴スタンドを持つ係を担当し同伴しました。病院玄関のよこに業者用の通路があります。そこにベットごと移動すると、ピカピカの大きなアメリカンバイクが運び込まれました。あんなに、ピカピカの大型バイク見たことありません。
患者さんは目をキラキラ輝かせて「かっこいい!」と喜ばれていました。エンジン音を聞きたいということで、病院なので長時間大きな音がなると困りますが、一瞬だけエンジンをかけ患者さんがアクセルを回し、爆音が病院玄関に鳴り響きました。その後、妻とバイクとたくさん写真撮影していました。
写真撮影をしてるそばで、他のご家族さんから「あんなに痛がっていたのにね、笑顔がみれて良かった!」と話してくれました。そうなんです、ほんの数分まで疼痛にてベットの上で身動きすらとれない状況だったのですが、バイクと対面した瞬間起き上がり、笑顔でピースサインをして写真撮影をしていたのです。この時、オキシコドンでもフェンタニルでも緩和することが出来なかった強い痛みも、大切な妻とバイクを目の前にすると、緩和されてしまう瞬間を目の当たりにし、家族など「大切なもの」の持っている計り知れない力を強く感じました。
病室に戻り、これ以上疼痛コントロールは難しいと判断、ご家族と相談した後ミダゾラム注投与にて持続鎮静が開始されました。その日の夕方、妻や多くの仲間たちに見守れ、旅立たれました。
本当に、バイクカッコよかったです!
そして、とても素敵な笑顔でした!
今頃、完成したバイクを周りに自慢しているのかなぁと思います。
ご冥福をお祈りします。
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