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緩和ケア病棟の患者さんとのエピソード「甘酒おいしいですよね。」

60歳代の子宮がんの患者さん。

腹膜に転移があり、腸管閉塞を合併していました。通過障害があるため、吐いてしまいます。鼻から胃に管をいれて胃液など排出していました。ジュースを飲んで味わっていましたがほとんど管から排出されていました。コーンポタージュを薄めて工夫しながら味を楽しんでいました。

回診の時「甘酒が好きだから飲んでいい?」と相談されました。水で薄めてサラサラにすれば大丈夫だと思いますが、そうすると、甘酒感が少なくなってしまいます。甘酒の粒が管につまってしまう可能性もあり断念していました。ちょっと、残念そうな顔をしていました。それでも、色々な飲み物を飲み味を楽しんで過ごしていました。

この患者さん、統合失調症の既往があり神経科から処方された薬を飲んでいました。吐いてしまうため内服は中止となっていました。とくに精神的に症状はでていませんでした。むしろ、会話がしっかりしていたくらいです。統合失調症に対して服用していた薬は少なからず眠気を誘発していた可能性が考えられます。その薬を服用しないことで、眠気が和らいだのかなと思いました。

緩和ケア病棟に来た時、点滴を1日500mL投与していました。管から排出されてはいましたが、口から水分を摂ることが出来ていたので点滴は中止となりました。その後も、好きな飲み物を飲みテレビを見ながら過ごされていました。回診の時は、きょとんとした顔で「はいっ、大丈夫です」と答えていました。痛みもなく、痛み止めは使用していませんでした。

そして、数週間が過ぎ眠る時間が長くなってきました。傾眠傾向になるということは残された時間が短くなったことを示す兆候の一つです。回診の時、反応が少なくなりました。その週末は、山場かもしれないねと医師と話していました。

それから、3週間。今日、緩和ケア病棟に着くと伝言板に「呼吸停止」と書かれていました。水分も栄養も全く摂らずこんなに人間は生きていられるのだろうか。

緩和ケア病棟の医師が話してくれました「身体的に痛みも無く、気持ち的に辛さが無く、そういった状態だったから残されたエネルギーをゆっくり使えたのかもね」確かにそうかもしれないと思いました。痛みや不安など、体が苦痛を感じれば体力は奪われていくと思います。なにも苦痛がなければ、ゆっくりと過ごす事が出来るんだな。

今ごろ、大好きな甘酒を飲んで楽しんでいると思います。ご冥福をお祈りいたします。

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この記事を書いた人

緩和薬物療法認定薬剤師。

1978年に千葉県銚子市生まれ、地元高校へ進学。その後、日本大学薬学部へ入学。卒業後、地元の病院に就職。勤務2年目から緩和ケア病棟を専任し20年。その経験をもとに「病棟で出会った患者さんとの素敵なエピソード」、実際に経験をもとに「緩和ケアに関連する薬の使い方」など情報発信しています。

趣味はスポーツ、アウトドア。高校からラグビーを始め、現在は小学生を対象に銚子ラグビースクールのコーチを務めています。また、「庭で焚火を楽しんで、夜のベットで寝る」程度のアウトドアを楽しんでいます!もう一つのブログ「銚子のぬし釣り」では、その程度のアウトドア情報を発信しています。

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