こんにちわ、iwata(@iwamegane)です。薬剤師として緩和ケア病棟を専任し19年。その経験をもとに、患者さんとのエピソード、緩和ケアに関連する薬について情報発信しています。
10年以上前、僕が新人だった頃は睡眠薬を考える時睡眠状況を確認して作用時間の長さで睡眠薬を選んでいました。
睡眠薬の種類
〇入眠障害:なかなか寝付けない、寝るまでに30分くらいかかる。 → 超短時間型~短時間型 ゾルピデム(マイスリー®)、ゾピクロン(アモバン®) etc 〇中途覚醒 → 短時間型~長時間型 ブロチゾラム(レンドルミン®)etc 〇早朝覚醒 → 中間型~長時間型 フルニトラゼパム(ロヒプノール®)、 ニトラゼパム(ベンザリン®)etc
睡眠衛生指導
しかし、最近はまず「睡眠衛生指導」を行ってから薬物療法を考えていくんですね。睡眠薬を含むベンゾジアゼピン受容体作動薬について副作用リスクや長期投与による生活質の影響が見直されたのですね。
「睡眠衛生指導」 良質な睡眠を確保するために 睡眠に関する適切な知識をもち 生活を改善するための指導法。 ・定期的な運動 ・寝室環境 ・規則正しい食生活 ・就寝前の水分 ・就寝前のカフェイン ・就寝前のお酒 ・就寝前の喫煙 ・寝床での考え事 睡眠の適正な使用と休薬のためのガイドライン (日本睡眠学会,2014年)
Q.高齢者の睡眠薬治療で注意すべきことは何か? ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬は、認知機能低下、転倒、骨折、日中の倦怠感などリスクがあるので可能な限り使用は控え、特に長時間作用型は使用するべきではない。 (エビデンスの質:高、推奨度:強) 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬にも転倒・骨折のリスクが報告されており漠然と長期投与せず、少量の使用にとどめるなど慎重に使用する。 (エビデンスの質:中、推奨度:強) 薬物療法の前に、定時の離床および就寝、朝方の日光浴、散歩などの適度な運動、午睡時間の制限、就寝前の過剰な水分摂取、アルコール、ニコチンなどの制限、静穏な寝室環境などの睡眠衛生指導を行う。 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
現在の睡眠薬事情
そして、睡眠薬の種類が増えてきました。歴史についてまとめてみました。
1960年代 ベンゾジアゼピン系薬剤。 神経伝達物質であるGABAの働きを促し脳神経の活動を抑える。 1989年 非ベンゾジアゼピン系。 筋弛緩などの作用を取り除き、副作用軽減目的に改良。 2010年 メラトニン受容体作動薬。 睡眠に関係しているホルモンのメラトニンに作用し、体内時計の調整することで睡眠と覚醒のリズムを調整する。 2014年 オレキシン受容体作動薬。 起きている状態を保つ神経伝達物質オレキシンの働きを抑え、 眠りに導く。
ラメルテオン(ロゼレム®錠8㎎) メラトニン受容体作動薬 非ベンゾジアゼピン系、2010年発売 【効能・効果】不眠症における入眠困難の改善 【用法・用量】成人には1回8㎎を就寝前に経口投与する。 〈使用上の注意〉 投与開始2週間後をめどに評価する。 食事と同時、食事の直後は服用を避けること。(血中濃度低下)
メラトニン 脳内の松果体において合成されるホルモン。 「睡眠ホルモン」とも呼ばれている。 メラトニンが分泌されると深部体温が低下して、休息に適した状態に導かれ眠気を感じるようになります。メラトニンは主に、光によって調整されています。夜中に強い光を浴びることが体内時計の乱れの原因のひとつと考えられています。
メラトニンについて
ブルーライトにはメラトニンの分泌を押させる特殊な効果がある。私たちの祖先にとってブルーライトは晴れ渡った空から降ってくるものだったからだ。眠りにつく前にスマホやタブレット末端を使うとブルーライトが脳を目覚めさせ、メラトニンの分泌を抑えるだけでなく、
分泌を2~3時間遅らせる。(一部抜粋)
理論上、寝る前にスマホを使うと眠りにつきづらくなるという考え方です。もちろん、スマホだけが不眠の原因というわけではないと思います。しかし、少なからず不眠の原因の一つにはなっていると思います。ブルーライトで減少したメラトニンをロゼレム®で補っていては本末転倒な感じがしま・・・。
スボレキサント(ベルソムラ®錠10㎎、15㎎、20㎎) オレキシン受容体拮抗薬非ベンゾジアゼピン系 2014年発売(MSDメルク) 【効能・効果】不眠症 【用法・用量】成人には1日1回20㎎を、高齢者には15㎎を就寝直前に経口投与する。 レンボレキサント(デエビゴ®錠 2.5㎎、5㎎、10㎎) オレキシン受容体拮抗薬非ベンゾジアゼピン系 2020年発売(エーザイ) 【効能・効果】不眠症 【用法・用量】成人には1日1回5㎎を就寝直前に経口投与する。
オレキシン 起きている状態を保ち、安定化させる脳内(覚醒を維持する)の物質。 脳の覚醒に関わるシステムを抑制することによって、 脳の状態が覚醒状態から睡眠状態へ移行することを促します。 1998年に発見された神経ペプチド。 オレキシンを作る神経細胞が消滅すると ナルコレプシーという睡眠障害になる。
ロゼレムやベルソムラは、せん妄予防に効果があると発表されています。がん患者において予後が短い場合の終末期せん妄に対してというよりはまだまだ生活の質が保たれている患者さんについて睡眠薬にベンゾジアゼピン受容体作動薬が処方されているならば睡眠衛生指導に加え、非ベンゾジアゼピン系の薬剤を使用することで患者さんの生活の質を保てるのではないかと思っています。
2017年 順天堂大学
高齢者救急患者における、就寝前にベルソムラ(スボレキサント)投与によって、安全にせん妄が予防できることを発表した。
2020年 大阪医科大学
ラメルテオン(ロゼレム)がせん妄を予防する効果が報告された。
今回は、病棟にいる看護師さん向けに睡眠薬について勉強会を開催させてもらう機会があり、まとめていました。ベンゾジアゼピン受容体作動薬が悪!ではありません!勉強会の最後に、「どうしても眠れない」「不安がとても強い」そういった場合は、適切に状況把握した上で適切なケアを行いそして、正しくベンゾジアゼピン系薬剤を使います!と、説明を加えました。
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