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【重要】見逃さないでケミカルコーピング!

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ケミカルコーピングとは

痛み以外の感情的な苦痛に対処するため、不適切および(または)過剰にオピオイド鎮痛薬を使用すること。コーピングとは、メンタルヘルス(心の健康)に関わる用語です。ストレスを回避したり減らしたりする工夫すること、だそうです。ケミカルコーピングとは、不安に対してオピオイド鎮痛薬を使ってしまうこと、結果として過剰投与の危険性があり、幻覚や強い眠気など副作用によって生活の質が落ちてしまう可能性があるということです。
chemical:化学の、化学的な、化学物質(薬品:chemicals)
cope:うまく対処する


この内容は、日本緩和医療薬学会主催第24回教育セミナーにて受講した兵庫県立姫路循環器病センター緩和ケア内科坂下明大先生のセミナーを参考にさせてもらいます。ちなみに、千葉がんセンター緩和診療科部長は坂下美彦先生です。緩和ケア業界には坂下先生が2人いるんですね!


オピオイドクライシスとは

crisis:危機

オピオイドクライシス(オピオイド危機)。米国では毎日100人を超える人がオピオイドの過剰投与で命を落とすなど「オピオイドの不適切使用」が社会問題となっている。この問題はオピオイドクライシスと呼ばれている。日本緩和医療学会ニューズレターより


2015年 米国、
年間33,000人がオピオイドの過剰摂取で死亡。
17,000人が処方せんで調剤されたオピオイドの過剰摂取で死亡。

CDC(米国疾病予防管理センター)発表。
毎日1,000人以上の救急患者が誤った方法でオピオイドを処方されている。
CDC:Center forDisease Control and Prevention

2017年8月、
前トランプ大統領が公衆衛生上の非常事態宣言を発した。


日本でオピオイドクライシスが起こるのか?

アメリカほど、起こることはないと思います。なぜなら、アメリカを含む海外ではがんの痛み以外の慢性的な疼痛に対してオピオイド鎮痛薬が処方されます。 比較的入手しやすい状況のため、乱用される可能性が日本より大きいと思います。 ちなみに、 以前聞いた話ですが、日本においてオピオイド乱用が多い職種は残念ながら、医療従事者のようです。一番、入手しやすい環境にいるのかもしれませんね。 さらに日本では、緩和ケアnet.など、教育や啓発活動を行っています。僕も、院内の待合室で行われているミニ講座で「麻薬の誤解」という題で話したことがあります。参考:緩和ケアnet.「医療用麻薬の誤解」

製品上、乱用されないような工夫がされています。海外では、オピオイド鎮痛薬をつぶして溶かして注射してしまうという乱用がみられます。オキシコンチン®錠がTR錠となり、簡単に割れなくなっています。タペンタ ®錠も固いです。溶かしても、ドロドロになり注射することは出来ません。そういえば、
オキシコンチン®TR錠を1回半錠、包丁で無理やり割って飲んでいた患者さんはいましたが・・・。


日本において、がん性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬は処方されます。がん患者さんの中には、少なからず依存が疑われる患者さんはいるようです。オピオイド鎮痛薬、麻薬には多幸感を与える作用があります。痛みに対してではなく、不安を和らげるためにオピオイド鎮痛薬を使用してしまうんですね。

しかし、精神依存する危険性がある。過剰投与になり、副作用発現リスクが大きくなる。結果、生活に悪い影響を及ぼしてしまいます。そういった薬物依存の前段階として、ケミカルコーピングに陥らないように予防的に介入することは可能とされています。


どういった患者さんに気を付ければよいのでしょうか?


ケミカルコーピングに注意すべき徴候として、以下のようなことが挙げられます。

  • 抑うつ
  • 精神疾患
  • 薬物乱用歴
  • アルコール依存症
  • アルコール依存スクリーニング陽性
  • 喫煙歴

がん患者がオピオイド鎮痛薬を服用している場合、もちろん適正に使用していますが、「もしかすると、依存している?」と、頭の片隅で考えておくことが必要かもしれません。


先日、一般病棟を担当している薬剤師に相談されました。「日中は痛みがなく過ごしていますが、夜間、決まった時間に3回レスキューを使います。」本当に痛みがあり、適正にオピオイド鎮痛薬を使用している、とは思いますが、頭の片隅で、依存している可能性もある?とは、考えました。この患者さんはタペンタ®錠を服用していました。8:00と20:00、時間を決めて服用しています。この時は、20:00の用量を増量することになったそうです。患者さんの話では、夜の痛みは少し和らいだそうですが、やはり、3回はレスキューを使用していました。数日後に退院されました。


無理やり、精神依存している!と決めつけ、「夜に、レスキューを飲んではいけませんよ!」と、対応することは効果的な介入とはいえません。対処方法としては、徐放性製剤のオピオイド鎮痛薬を増量し身体をすこし慣らしてみることもよいそうです。今回の患者さんは、徐放性製剤を増量しました。が、レスキューの使用回数はかわりませんでした。薬物コントロールが上手くいくことばかりではありません。そして、簡単にコントロールが上手くわけではありません。大切なことは、患者さんが苦痛なく過ごせているかどうかです。もしかしたら、依存しているかもしれませんが、普通に生活できてれば問題はないと思います。患者さんと向き合って必要に応じて多職種で関わって個々にあった薬物療法を一緒に考えていくことが大切です。

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この記事を書いた人

緩和薬物療法認定薬剤師。

1978年に千葉県銚子市生まれ、地元高校へ進学。その後、日本大学薬学部へ入学。卒業後、地元の病院に就職。勤務2年目から緩和ケア病棟を専任し20年。その経験をもとに「病棟で出会った患者さんとの素敵なエピソード」、実際に経験をもとに「緩和ケアに関連する薬の使い方」など情報発信しています。

趣味はスポーツ、アウトドア。高校からラグビーを始め、現在は小学生を対象に銚子ラグビースクールのコーチを務めています。また、「庭で焚火を楽しんで、夜のベットで寝る」程度のアウトドアを楽しんでいます!もう一つのブログ「銚子のぬし釣り」では、その程度のアウトドア情報を発信しています。

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