がん患者さんに対する鎮静に使う
ミダゾラムの具体的な投与方法とは?
本記事では、上記のような悩みを解決します。
こんにちわ、iwata(@iwamegane)です。薬剤師として緩和ケア病棟を専任し19年。その経験をもとに、患者さんとのエピソード、緩和ケアに関連する薬について情報発信しています。緩和薬物療法認定薬剤師。
緩和ケア病棟のおいて、がん患者の耐え難い苦痛緩和の鎮静目的にミダゾラムを使用されます。ミタゾラム添付文書の効能効果に手術時の使用方法の内容は記載されていますが、がん患者に対する鎮静の投与方法は記載されていません。もちろん、鎮静にはミダゾラム以外も投与する薬剤はありますが、今回はミダゾラムに焦点をあて、まとめました。
具体的な投与方法
緩和ケア病棟では、以下のような処方内容で投与されます。通常、注射薬の投与方法は静脈内投与が基本です。しかし、がん終末期になると血管は細くなり静脈内投与のルート確保が困難になってきます。そこで、初めから皮下投与とすることを推奨しています。また、皮下投与は吸収がゆっくりのため安全性も高いです。静脈内投与も可能ですが、皮下投与より吸収が早い分効果はでやすいので、少ない用量から開始したほうがより安全に投与できます。
不穏時
① 持続投与
ミダゾラム注(10mg/2mL) 3A 持続皮下投与、もしくは静脈内投与
0.1mL(0.5mg)/hから開始 開始時1時間量早送り 0.1mLずつ適宜増減可 最大 1mL(5mg)/h
② 頓用
ミダゾラム注(10mg/2mL) 0.7mL(3mg)、もしくは1mL(5mg)
皮下投与、もしくは静脈内投与
鎮静、強い不穏時
ミダゾラム注(10mg/2mL) 3A 持続皮下投与、もしくは静脈内投与
0.3mL(1.5mg)/hから開始 開始時1時間量早送り 1mLずつ適宜増減可 最大 1mL(5mg)/h
添付文書の投与方法
用法、及び用量
効能又は効果 | 用法及び用量 | 体重40kgの場合 |
---|---|---|
麻酔前投与 | 0.08~0.10mg/kg 筋肉内に注射 | 3.2~4mg/回 |
全身麻酔の導入及び維持 | 0.08~0.15mg/kg 筋肉内に注射 | 3.2~6mg/回 |
集中治療における人工呼吸中の鎮静 | 0.03mg/kgを少なくとも 1分以上開けて静脈内投与する | 1.2mg~ |
歯科・口腔外科領域における 手術及び処置時の鎮静 | 1~2mgをできるだけ緩徐に 静脈内投与する | 1~2mg |
添付文書には、がん患者さんの鎮静に対する適応や使い方の記載はありません。手術における鎮静が主な適応となっています。がん患者さんに投与する用量は、1時間あたり1~5㎎ですので、添付文書の用量からみても、問題ないことがわかります。
薬物動態
投与方法 | 半減期 (T1/2) | 最高血中濃度到達時間 (Tmax) |
---|---|---|
静脈内投与 | 1.8~6.4h | 0.5h |
持続投与 | 1.9~3.2h | 0.5h |
個人差はありますが、半減期は30分と短いので、投与を中止すれば薬剤の効果が薄れてきます。一度使い始めたら、ずーとねてしまうというわけではありません。しかし、予後数日と病状進行していると、がん悪液質の影響で代謝能力が低下します、そもそも眠る時間も長くなっているので、投与を中止しても長時間にわたり睡眠効果が持続する場合もあります。
お酒が強いと、ミダゾラムが効きづらいそうです。
ガイドライン
日本緩和医療学会 苦痛緩和のための鎮静に関するガイドラインを参考にしています。持続鎮静の第一選択薬として、ミダゾラムが推奨されています。
鎮静の開始
原則として、少量で緩徐に開始し、苦痛緩和が得られるまで投与量を増やしてきます。ただし、苦痛が強い場合には、十分な観察と調整のもとに、苦痛緩和に十分な鎮静薬を投与し、苦痛が緩和されたあとに減量してよい。
苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン P.39 ⑥鎮静の開始 2)鎮静の開始 より抜粋
睡眠確保や全身状態が悪化している場合など、呼吸抑制などの有害事象のリスクが高いので安全性を確保するため「ミダゾラム注(10mg/2mL) 3A 持続皮下投与 0.1mL(0.5mg)/h」と、少量で開始し徐々に増量したほうが安全性が高いと思います。しかし、終末期せん妄によりベットから降りてしまうなど危険行動がみられる場合、またはどうしても取り切れない苦痛が強い場合など、呼吸抑制など副作用発現に十分注意し観察しながら「ミダゾラム注(10mg/2mL) 3A 持続皮下投与 0.3mL(1.5mg)/h」で開始し、適宜増減していきます。
鎮静種類
持続鎮静:意識の低下した状態を維持する。
間欠的鎮静:意識の低下をもたらしたあと、中止・減量し意識が低下しない時間を確保する。
深い鎮静:コミュニケーションができないような、深い意識の低下
浅い鎮静:コミュニケーションが出来る程度の、軽度の意識の低下
鎮静は4種類に分類されています。「鎮静」のイメージは、寝かせてしまう!となります。しかし、持続的に深く眠らせるわけではなく、間接的に使用することもあります。薬物療法やケアによってどうしても取り切れない苦痛(倦怠感や難治性疼痛など)がある場合、日中も間欠的に投与することもあります。家族と会う時間だけは、「ミダゾラムをOFFにしましょう」という使い方もします。また、睡眠確保といういみで「寝たらOFF」といった感じで投与することもあります。
オピオイドによる鎮静は?
オピオイドは鎮静に使ってもよい?
推奨されていません!
以下の理由より、鎮静目的にオピオイドを増量することは推奨されていません。実際に、オピオイドの増量が行われるケースを見ることがあります。ゼッタイにダメではありませんが、医師から鎮静の薬剤選択について相談を受けたときは、有効性と安全性を考えミダゾラムを推奨しています。
- オピオイドは意識の低下をもたらす作用が弱い
- 蓄積により、神経過敏症を生じる
- 但し、疼痛及び呼吸困難を緩和するため併用してもよい
薬剤耐性について
48時間を過ぎると耐性が生じてくると、緩和ケア医師より教えてもらいました。ミダゾラム注は鎮静目的以外にも、睡眠確保目的で投与されます。不眠の訴えがあるからと、安易に投与を開始すると耐性が生じてしまいます。おいおい、鎮静目的に使用する場面になった時、どんどん増量しなければ鎮静の効果が得られなくなる可能性もあります。そこで、鎮静目的ではなく睡眠確保目的であれば、まずは内服で適切な睡眠薬の投与を推奨します。最終的に鎮静に使用するときに、十分な効果を得るためにも適切な使い方を心がけています。
終わりに
ミダゾラムの使い方について、まとめました。持続鎮静だけでなく、間欠的な投与、そして睡眠確保にも使用されます。安易に投与することで、必要以上に耐性を生じさせてしまい、いざ持続鎮静の有無について検討し開始されるときに、十分に効果が発揮されないことは、患者さんにとってデメリットです。その時々で、薬剤の選択、投与経路、用法用量など検討し投与することで、ミダゾラムは十分に効果を発揮し患者さんの生活の質をたもち、満足度の向上に貢献できます。
コメント