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がん患者さん、残された時間が短くても「モルヒネ」を投与する必要性を考える。

肺がんの患者さん、緩和ケア病棟に入院しました。呼吸困難の緩和目的にナルベイン®注の持続皮下投与が開始されました。回診で訪問した時は、呼吸は弱いものの表情は穏やかでした。がん終末期の状態、いつ呼吸が止まってもおかしくない状況です。過度な傾眠もなく呼吸数の減少はありません。


数日前までMSコンチン®錠を服用していました。状態の悪化に伴い意識レベルが低下、嚥下機能も低下したため内服中止になりました。その後、オピオイド鎮痛薬は中止されていました。意識が落ちていしまうのであればモルヒネの使用は希望しない。ということで、モルヒネを使用せず経過観察となっていました。しかし、オピオイドを開始することで、さらに意識が落ちることなく、穏やかに過ごされていました。

内服でモルヒネを投与していたので、注射薬に換算し30%程少なめから投与を開始すれば安全性は保たれると思います。モルヒネを投与することで意識レベルがさらに低下するかもしれません。しかし、それはモルヒネによる呼吸抑制の影響では無くがん自体の影響と考えます。WHO(世界保健機構)は、以下の内容を1990年に報告しています。

鎮痛薬を適切な量で使ったことで死を早めることになったとしても、それは適量投与によって意図的に命を絶つことと同じにならない。適切な痛みの治療法が死を早めることになったとしたら、尊厳のある、容認できる生活状況を維持するのに必要な治療手段にさえたえられないほど患者の状態が悪化していたことを意味するだけである。

WHO 1990年

専門医のもと、正しい投与量で治療を行うことは決して死を早めるものではなく患者さんのQOLを下げるものではありません。予後を考えると、いつ呼吸が停止してもおかしくない状況です。患者さんが苦しくないように過ごせるよう、安全に少量からモルヒネを開始することが出来ます。

ご家族は、「モルヒネを使うと寿命が縮まる」と思います。しかし、適切にオピオイドを使用する事を説明し納得してもらいモルヒネを開始することで、患者さんは苦痛なく良い時間が過ごせます。そんな患者さんを多く見てきました。正しい情報提供をすることは大事な事と思います。ご家族に納得してもらえないこともあります。でも、まずは正しい情報を提供し、患者さんの生活の質の向上に向けて、医療者とご家族が一緒に考えて行くことは大切な事と考えます。

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この記事を書いた人

緩和薬物療法認定薬剤師。

1978年に千葉県銚子市生まれ、地元高校へ進学。その後、日本大学薬学部へ入学。卒業後、地元の病院に就職。勤務2年目から緩和ケア病棟を専任し20年。その経験をもとに「病棟で出会った患者さんとの素敵なエピソード」、実際に経験をもとに「緩和ケアに関連する薬の使い方」など情報発信しています。

趣味はスポーツ、アウトドア。高校からラグビーを始め、現在は小学生を対象に銚子ラグビースクールのコーチを務めています。また、「庭で焚火を楽しんで、夜のベットで寝る」程度のアウトドアを楽しんでいます!もう一つのブログ「銚子のぬし釣り」では、その程度のアウトドア情報を発信しています。

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