まずは患者さんのところへ行くこと、かな。
山崎章郎先生より
薬剤師になって2年目の時、緩和ケア病棟を担当することになりました。そして、緩和ケア関連の研修会に参加し、その後の懇親会で講師を務めていた山崎章郎(やまざき ふみお)先生(現 小平クリニック名誉院長)に話しかけ教えてもらいました。それから19年が過ぎ、今でも常に意識している言葉です。緩和ケア病棟に限るわけではありません、病棟を担当する薬剤師さんにとっても、大切な言葉と思います。
こんにちわ、iwata(@iwamegane)です。薬剤師として緩和ケア病棟を専任し19年。その経験をもとに、患者さんとのエピソード、緩和ケアに関連する薬について情報発信しています。緩和薬物療法認定薬剤師。
さて、本記事では学会が編集している教科書「緩和医療薬学」を中心に、自身の経験を含めてまとめています。今回は「医療連携」についてです。
また「薬剤師として病棟で何をすればよいのか」について、自身の経験をもとにお伝えします。
緩和医療で期待される薬剤師の役割
1.薬事の適正使用の評価について
a) 病態生理の理解と心理状況の把握
b) 薬物動態の理解
c) 科学的根拠のある薬剤選択
d) 副作用、相互作用
e) 薬物療法の効果判定
2.薬剤情報提供(服薬指導)
a) 服薬指導
b) 医療者間の情報共有
以上の項目について、経験をもとに自分なりにまとめました。
緩和ケア病棟の担当になった薬剤師は何をすればよいか?
緩和ケアの参考書を網羅してからだな!
患者さん情報を、隅から隅まで調べてから行こう!
まず、患者さんに会いましょう!
- さらっと、薬の勉強と情報収集
- ベットサイドへ行く
- しっかりと、薬の勉強と情報収集
- さらに、薬を考える
カルテからの情報収集は患者さんに会った後の方が、効率的かつ有用です!
① さらっと、薬の勉強と情報収集
薬の勉強
病態生理の理解、薬物動態の理解、副作用、相互作用について、基礎的な知識は大学で学んでいます。そこで、簡単な参考書を1冊読む程度で、まったく問題ありません。はじめから、有名どころ数百ページある緩和ケア参考書を数週間かけて勉強しなくても大丈夫です。そういった、参考書は患者さんと関わる中で問題にあたったときに活用するようにします。どの情報がどこにあるのか、何となく把握していればよいです。
② 患者さん情報を把握
緩和ケア病棟に行き、いきなり病室のドアをノックしても、さすがに何もできません。そこで、カルテから情報収集をしますが、情報収集に時間をかけすぎると、患者さんのところにいく時間が少なくなってしまいます。患者さん1人に、10分程度情報収集を行えば十分です。
- 病名
- 検査値(腎機能、肝機能、Ca値、K値、アルブミン値※、程度でOK)
- 薬歴
※ アルブミン値:がんの身体的影響、予後を考える時にアルブミン値を確認します。2.5g/dL以下へ下がってきていると、がんによる栄養状態が低下しているがん悪液質は進行していると考えます。(他にも、予後を考えるために基準となる検査値はあります。)
準備は整いました、患者さんのところに行きましょう!
③ 患者さんへ会う
なにわともあれ、患者さんのベットサイドヘ行きます。直接会って、病態や投与されている薬物の情報を確認していきます。その時に、痛みなどの苦痛について、実際の症状について確認します。また、その時に投与されている薬剤について説明することで、薬剤情報提供(服薬指導)を行います。
百聞は一見に如かず!
服薬指導時の注意点
モルヒネ、医療用麻薬など「怖いくすり」と思っている患者さん、ご家族は多いです。単に薬の説明をするのではなく、患者さんや家族が抱える誤解や不安に対するかかわりも重要な役割です。安全であること説明し、そして痛みをとるメリットを説明して理解してもらい、薬物療法にとりくんでもらいます。
モルヒネの誤解
寿命を縮める?
最後のくすり?
副作用があるでしょ?
依存しちゃう?
全部うそです!
- 痛みを我慢する方が体に負担をかけてしまいます。
- 多くの方はがんとわかった最初の段階から、痛み止めを使います。
- 便秘など、副作用はありますが対処するので大丈夫です。
- がんの痛みに対して正しく使用すれば、依存はしません。
やはり、モルヒネなど医療用麻薬はまだまだ誤解されている、怖い薬と思っている患者さんは多いです。以上の内容を、患者さんやご家族に説明しています。10年前から、国は早期緩和ケアを推奨していますが、まだまだ緩和ケアの認知度は低く、そしてモルヒネの印象は悪いです。
そこで、モルヒネの誤解を説明し納得して投与してくれるように説明をすること大切です。そして、痛みがとれれば生活やしやすくなるメリットを伝えることも重要です。
緩和ケアは終末期からではなく、早期から始まります!
④ 薬の勉強と情報収集
肺がん、脳転移あり
会話はできる 嘔気もない、ご飯はたべれている 水も飲んでいる
呼吸困難ありそう 眠れているか未確認だな
今はモルヒネを投与している 他にも眠剤も飲んでいる
表情は穏やか 理解力もしっかりしている
患者さんが使っている薬剤について、薬物動態、効能効果など詳しく勉強していきます。まずは、一つだけを勉強するので時間はあまりかかりません。そして、次の患者さんのところへ行き、使っている薬剤について1つだけ勉強する。そして、次の患者さんのところへ行く。と、繰り返していくうちにいつのまにか色々な薬剤について勉強していることになります。
- 薬物動態(吸収、代謝、排泄、効果発現時間、最高血中濃度到達時間、血中濃度半減期)
- 副作用、相互作用
- オピオイドスイッチングのタイミング
- 保険適応外で使用する薬剤も多い!予期せぬ副作用に注意する。
- 心理状況(不安、不眠、心配事など)
モルヒネに呼吸困難の適応は無く、厳密には適応外使用なんです!
科学的根拠のある薬剤選択
- 科学的根拠が明らかな薬剤は少ない
- 保険適応外で使用する薬剤が多い
なぜ、モルヒネは天井効果がないのか?
なぜ、腫瘍熱にナイキサンが効果があるのか?
多くの経験論が根拠となっています!
以前、製薬会社に「なぜモルヒネの鎮痛効果には天井効果がないのか」に質問したことがありますが、明確な回答はありませんでした。しかし、高用量で疼痛コントロール良好であった症例など、論文など情報提供してくれました。
また、モルヒネの適応に呼吸困難はありません。しかし、世の中としては通用する投与方法となっています。院内において、適応外使用なる投与方法は倫理委員会で承認もえています。
今はインターネットを活用すれば、色々な情報を探す事ができます。信頼性のある論文や様々な報告から薬剤を考え選択する必要があります。
製薬会社さんも論文など情報提供してくれます。
相談するのも一つの方法ですね!
さらに、必要な薬を考える。
がんの終末期になると、様々な症状が現れます。
約50%の患者さんは早い段階から「痛み」を感じています。緩和ケアとは、終末期から始める医療でなく、早期から介入する医療です。
終末期を迎えると、様々な身体症状の変化が見られます。それらの症状を軽減されるため薬剤を考えることも大切です。しかし、場合によっては最低限の薬剤で症状緩和が図れるような処方提案も必要です。
緩和ケアチーム活動
緩和ケア病棟だけでなく、一般病棟で活動する緩和ケアチームに参加します。緩和ケア病棟の施設基準に薬剤師は含まれませんが、緩和ケア診療加算における緩和ケアチームでは専任の薬剤師が必要となります。今のところ、専任の薬剤師対して必修研修はありません、また何らかの認定取得も課せられていません。
- 身体症状の緩和を担当する専任の常勤医師
- 精神症状の緩和を担当する専任の常勤医師
- 緩和ケアの経験を有する専任の常勤看護師
- 緩和ケアの経験を有する専任の常勤薬剤師
なお、1~4のうちいずれか1人は専従であること。
ただし、緩和ケアチームが
緩和ケア診療加算に関する施設基準より
「専従」とは、自分の業務の約8割をその業務を行っていることです。
薬剤師は、専任でOKなので、1日中チームにいなくても大丈夫です!
最後に
今回、緩和医療で期待される薬剤師の役割についてまとめました。薬剤師として、急性期医療においても緩和医療においても、役割は「患者さんの生活の質の向上」のため、安心安全な薬物療法を提供することです。しかし、緩和医療において終末期のがん患者さんに係るときは「予後」を考慮する必要があります。ここが、急性期医療との違いです。
まずは、患者さんのところへ行き、顔をみて話を聴くことが最も効率的です。
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