緩和ケアといえば有名な人はだれだろう?
本記事は、そんな疑問を解決します
こんにちわ、iwata(@iwamegane)です。薬剤師として緩和ケア病棟を専任し19年。その経験をもとに、患者さんとのエピソード、緩和ケアに関連する薬について情報発信しています。緩和薬物療法認定薬剤師。
日本緩和医療学会「緩和薬物療法認定薬剤師」認定取得を目指しています。このカテゴリーでは学会が編集している教科書「緩和医療薬学」を中心に勉強したことをまとめています。認定取得を目指している同士の方々へ、少しでもお役に立てれば幸いです!
緩和ケアにおいて、どの教科書をみても「全人的苦痛(トータルペイン)」の概念について出てきます。終末期がん患者さんの苦痛は、痛みだけでなく様々な苦痛があり、緩和するために全人的苦痛について理解する必要があります。また、薬剤師としてどのように全人的苦痛に対してどのように関わるか考えてみました。
全人的苦痛の概念
シシリー・ソンダースが提唱した「全人的苦痛(トータルペイン)」という概念は、緩和ケアの根幹となっています。がんの痛み「身体的苦痛」のみならず、「精神的苦痛」、「社会的苦痛」、「スピリチュアルペイン」の4つの側面からなる考え方です。
痛みを4つに分類しています!
身体的苦痛
身体的苦痛があると、人間としての尊厳を損なうことすらありえます。まずは、身体的苦痛をとることが最も最優先されるべきとされています。身体的苦痛について、まずは「痛み」をイメージしますがそれ以外にも、多くの身体的苦痛があります。
痛み、全身倦怠感、食欲不振、便秘、不眠、口喝、悪心・嘔吐
腫瘍による臓器や組織の浸潤、神経圧迫
痛み以外の身体症状、日常生活動作の支障、がん治療の副作用、不眠、慢性疲労感
「痛み」以外の様々な症状も身体的苦痛に含まれます!
がん患者さんの苦痛を時系列的に累積頻度をみると、「痛み」は早い段階から出現します。よって、「痛み」のケアは大切になってきます。予後が短じかくなるについて、多くの「身体的苦痛」が出現してきます。
「痛み」は早い段階から50%は出現しています!
精神的苦痛
精神的苦痛を考える時、多いのは不安だと思います。しかし、より詳しく考えることで、どのように介入していくのか考える上で、役立ってきます。患者さんは、いまどんな気持ちでいるのか、またなぜそう思っているのか、について考えていきます。
薬剤師としての関り
死に対する不安など薬剤師として介入しずらい「精神的苦痛」である不安はあります。しかし、薬剤師的として「薬物療法に対する不安」について介入することは可能です。服薬説明にて、その不安がなるなることは、薬剤師でもできる「精神的苦痛の緩和」と思います。
私たちが死にゆく人々から学びとった要約。
「死ぬ瞬間」キューブラー・ロス
① 否認と隔離 → ② 怒り → ③ 取り引き → ④ 抑うつ → ⑤受容
これらの心理過程は直接的ではなく、進んだり戻ったりする。
また、患者だけでなく家族にも同様の心理状態あると言われている。
デーケン先生は、もう一段階「期待」を追加してます。
注:認定試験には出題されません!
①否認 → ②怒り → ③取り引き → ④抑うつ → ⑤受容 → ⑥期待と希望
「よく生き よく笑い よき死とであう」アルフォンス・デーケン
6段階目、「期待と希望」を加えています。例えば、天国で愛する人とかならず再開できるという希望と確信を抱く人の場合は、死にまさる生命を積極的に待ち望みながら平安なうつに死を迎えています。
社会的苦痛
病状の進行によって、これまでの社会的役割や、仕事が出来なくなったことによる経済的な基盤が揺らぐことは、患者にとって大変つらく、社会的苦痛となります。経済的な負担に関しては、利用可能な社会的支援制度についてMSW(メディカルソーシャルワーカー)に相談することも必要です。
薬剤師としての関り
オピオイドの徐放性製剤は残念なのですが、安価ではありません。そこで、ジェネリック医薬品へ変更を検討し、医療費削減することで経済的な面から患者さんへ関わることができます。
また、疼痛やせん妄に対して適切な薬物療法を行うことで、患者さんは安静に過ごすことが出来れば、ご家族も安心して仕事にも行けます。結果として、ご家族さんは安心して仕事に行け、ご家族さん経済的ケアに繋がると思います。
医療連携室に出入りすると、MSWさんと仲良くなれます!
スピリチュアルペイン
死を前にした人間の「将来の喪失」、「他者との関係の喪失」、「自律の喪失」から、自己の存在意義や生の無意味、無価値、孤独、疎外などと言われています。
身体的苦痛、精神的・心理的苦痛、社会的苦痛の誠実に対応すれば、スピリチュアルペインはおのずとケアされる。
キューブラー・ロス
スピリチュアルペインはただでさえ理解しずらいです。まして日本語訳は「霊的苦痛」など書いてある場合があり、さらに理解しずらいです。普段は、そのまま「スピリチュアルペイン」として扱って、介入していきます。病棟では、患者さんが「もう死にたい」など訴えてくることがあります。精神的苦痛の不安との区別は難しいです。まずは、患者さんの話を良く聴いて、緩和できそうな苦痛については可能な限りケアすることで、結果としてスピリチュアルペインも緩和されてくると思います。
スピリチュアルペインという言葉的にも、わかりずらいです。そして、どのように関わるのかも悩ましいです。薬物療法によって、痛みや薬に対する不安を取り除くことが出来れば、結果としてスピリチュアルペインの軽減に繋がることがあります。そして、まず患者さんに寄り添っていく「態度」を示すことからケアが始まると考えています。
まず、身体的苦痛の緩和することが大切です!
緩和ケアの教科書に出てくる人物、3選!
緩和ケア領域を勉強していると、よく出てくる名前です。「緩和医療薬学」でも取り上げられています。シシリーソンダースさんと、キューブラーロスさんは、忘れてはいけない有名人です!
シシリー・ソンダース
シシリー・ソンダース女史 Dame Cicery Saunders (1918~2005)
初の近代ホスピス「セントクリストファーホスピス」をロンドンに開設した、近代ホスピス運動の創始者です。その人類愛にみちた業績に対し、エリザベス女王からDamaの称号を授与されました。
モルヒネの定期投与法
ソーシャルワーカーとして活躍する若き日のソンダースさん、末期がん患者の痛みに経口モルヒネを使うが、痛みの訴えを待って投与する頓服方式でした。そんな中、以下のようには発想しましたが周囲から受け入れられませんでした。
「痛みの訴えがある前に次回分を投与すれば、いつも痛みから解放される!」
そこで、オックスフォードで医学を学び、医師免許を所得しました。医師のなったソンダースさんは、各地で終末期ケアに尽力しました。1967年、オックスフォード大学からTwycross医師を招き、モルヒネを定期投与する鎮痛方法を証明しました。
経口モルヒネの至適量を4時間ごとに服用すると、鎮痛作用、副作用、患者の便宜の間に最良のバランスをもたらす。完全除痛率は87%!
そして1986年、モルヒネの定期投与法がWHO方式がん疼痛治療法に取り入れられ、全世界で使用されうるようになりました。
WHO方式がん疼痛治療法
全世界のあらゆる国に存在するがん患者を痛みから解放することである。これは、貧しい国でも、医療が十分に生き割っていない国でも、痛みに苦しんでいるがん患者が存在するため、誰でもできる疼痛治療法として作成されました。日本では主に強オピオイドを使いますが、世界には「コデイン」の方が使いやすい国もあるので、弱オピオイドであるコデインも鎮痛薬の中に含まれています。(緩和医療学会ガイドラインより)
日本代表として、武田文和先生が参加しています。
キューブラー・ロス
エリザベス・キューブラー・ロス Elizabeth Kubler-Ross博士 (1926~2004)
スイス生まれの精神科医、患者の精神状態を段階的にまとめた「死の瞬間 」の著者。
キューブラーロスさんは2004年に亡くなりました。その時、脳梗塞になり麻痺もありました。多くの死と見つめ合ってきましたが、いざ自分が脳梗塞になり死に直面した時、死を受け入れられていなかったようです。
病院薬剤師として就職したのが2002年です、思い出したのですが、当時の緩和ケア病棟の医師から、NHKで放送された「最後のレッスン」という動画を見せてもらいました。
緩和ケアの第一人者でも、死は難しい問題なんですね…
アルフォンス・デーケン
アルフォンス・デーケンAlfons Deeken (1932~2020)。
1959年来日、上智大学名誉教授。「東京・生と死を考える会」名誉会長。認定試験には出てきませんが、とても感銘を受けた先生です。10年以上前、当院にて講演会してくれました。生のプレゼンは本当に勉強になりました。とてもユーモアのある方です、将来はデーケン先生のようになりたいと思いますた。講演会の打ち上げにも参加してくださり、常にニコニコしながら談笑されていました。会の最後、デーケン先生が「みんなで手を繋いで歌いましょう」と提案され、ユア・マイ・サンシャインを合唱し盛り上がりました!
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